年に一度くらいのペースで、モバイルルーターが必要になる場面があります。これまではその都度レンタルで済ませていたのですが、毎回届く端末が違うので設定をやり直すことになり、正直だるいと思っていました。

今回、それなりの期間まとまってネット環境が必要になる用件ができたので、いい機会だと思って腰を据えて検討しました。結論から言うと何も買いませんでした。ただ、検討の過程で分かったことが多かったので残しておきます。

前提と要件

条件はこんな感じでした。

  • 使うのは年1回程度。ただし将来的に月1回くらいに増える可能性はある
  • 既存のIIJmioは毎月10GB以上余らせている
  • ただしIIJ光とのセット割で安くしているので、IIJmio単体を触りたくはない
  • 子供のタブレットを繋ぐ用途も出てくる
  • WiMAXは月額が高くて論外
  • テザリングはスマホのバッテリー消耗と、モバイル回線をオフにし忘れて使い切るのが怖い

「毎回設定が変わるのがだるい」という不満の本体は、実は回線ではなくレンタル端末が毎回違うことにあります。自前の端末を持てばSSIDとパスワードが恒久固定になるので、一度繋いだ機器は翌年以降も自動で繋がる。ここが一番の動機でした。

回線はpovo2.0で確定した

回線側はすぐに答えが出ました。povo2.0です。

  • 基本料0円、初期費用0円、契約縛りなし
  • 使うときだけトッピングを買う方式
  • 180日以内に1回何か買えば維持できる。最安250円のトッピングを年2回で年500円程度
  • KDDIのサービスなので回線はauそのもの

年1回しか使わない用途に対して、固定費が発生しないのは決定的です。IIJmioに追加のデータeSIM(2GB 440円)を足してデータシェアする案も検討しましたが、使わない月も440円が固定でかかるので年5,280円。povoの年500円運用と比べると10倍で、月1利用が定着してから考えればいい話だと判断しました。

ちなみに「auの回線が欲しい」という理由でau本体を契約するのは筋が悪いです。auのホームルーターは契約住所でのみ利用可能で、登録した住所以外では使えません。持ち出す用途には最初から向いていません。

端末選びで詰まった

問題は端末でした。候補として実際に検討したのは以下です。

富士ソフト +F FS045W

2025年5月発売の4GモバイルルーターSIMフリー機。実売17,000円前後。

  • eSIM3プロファイル + nanoSIMで最大4回線を保持できる
  • バッテリー着脱式で、バッテリーレス駆動に対応
  • 4G連続通信約20時間、135gと軽量
  • バッテリー保護設定(70%で充電停止、60%で再開)あり
  • 日本のバンドをB18/B19/B26含めて網羅

長期の常時稼働と、その後の長期保管の両方に耐える設計で、一番バランスが良さそうに見えました。

据置型のSIMフリーLTEルーター。想定価格17,380円。

  • 2.4GHz 300Mbps + 5GHz 867Mbpsを同時に別SSIDで出せる
  • LTE Cat6でキャリアアグリゲーション対応。FS045WのCat4より上流に余裕がある
  • 着脱式の外部アンテナ2本(SMA-F)。電波が弱ければアンテナ交換で対処できる
  • AC給電でバッテリーなし。ギガビットLANポート4つ、保証3年
  • 国内版はB1/B3/B5/B8/B18/B19/B26/B28対応

海外向けLTEルーターは日本のプラチナバンドに非対応というのが定説ですが、MR600の国内版はauのB18/B26をきちんと拾います。ここは調べて意外だった点です。

Speed Wi-Fi 5G X11(中古)

au版のWiMAXモバイルルーター。中古1万円前後。Wi-Fi周波数設定に「2.4G/5G同時」という選択肢が正式に存在します。

ただしpovoで使うと癖があるようで、ローミングをオンにしないと繋がらず、その場合は4G LTE固定かつ2.4GHzのみになるという報告があります。APNのユーザー名とパスワードが不要なのに何か入れないとエラーになる、という話も。キャリア端末を保証外の回線で使う以上、こういうのは避けられません。

NEC Aterm HT100LN

据置型のバッテリーレス機。2017年発売。5GHzは11ac 1ストリームの433Mbps止まりで、2025年発売のFS045Wとほぼ同スペックです。

「2.4GHzと5GHzを同時に出せない」という壁

ここが一番のつまずきでした。

やりたかったことは、カメラを2.4GHz、スマホやタブレットを5GHzに分けることです。カメラの類はだいたい2.4GHz専用なので、混ぜたくなかった。

ところが富士ソフトのモバイルルーターは無線が1系統で、バンドを「切り替えて」使う設計です。FS045WはマルチSSIDでSSID1とSSID2を立てられますが、SSID1で5GHz(W52/W56)を使っている場合はSSID2を有効にできません。SSID2は実質ゲストモード用です。FS050Wでも同じ構造で、1万円足しても解決しません。

昔使っていたNEC製のWiMAXルーターでは2つ出せた記憶があったのですが、これは正しくて、モバイルルーターの中でWiMAX系だけが同時2バンドを持っているという構図でした。

同時2バンドが欲しければ据置型に移るしかない。でも据置型は電源が絶対条件で、サイズも大きい。ここで話が一周します。

「上流が細いなら意味がない」という気づき

途中で気づいたのは、そもそも5GHzで繋ぐ意味が薄いということでした。

4G Cat4の上限は受信150Mbps、実効は都心の屋内で20〜60Mbps程度です。2.4GHz(11n)でも実効30〜50Mbpsは出るので、回線側が先に詰まる。Wi-Fiのバンドを変えても速くなりません。動画視聴の目安は25Mbps以上なので、数台なら2.4GHz単独でも足りてしまいます。

同時2バンドの本当の価値は速度ではなく機器の分離でした。それならSSID1とSSID2を両方2.4GHzで立てれば目的は達成されます。

「5Gで受けても2.4GHzでルーターと繋がったら速度が落ちるじゃないか」という直感は正しいのですが、5Gが屋内でまともに入る前提がそもそも成立しにくい。5GのSub6は建物内をほとんど透過しないので、窓際でなければ4Gに落ちます。

既存Wi-Fiを再配信する案

トラベルルーターでその場のWi-Fiに繋いで再配信する、いわゆるWISPモードも検討しました。GL-MT3000あたりが該当します。

  • 5GHz 2402Mbps + 2.4GHz 574Mbpsで、それぞれにゲスト用APを持てる
  • 有線・リピーター・USBテザリング・外付けUSBモデムを選べる
  • 196gでUSB給電、バッテリーなし
  • WISPモードではファイアウォールとして働く。公衆Wi-Fiに繋ぐなら実利がある

ただしこれが効くのは「電波が弱くて届いていない」場合だけです。上流の帯域そのものが絞られている場合、中継しても増えません。手前で細くなっている水道の先にポンプを付けても水量は増えない、という話です。

結論:買わなかった

最終的にこうなりました。

  • MR600はスペック的には要件を満たすが、202×141mmとアンテナ2本ででかい。いかにもルーターという見た目で、持ち込む場所によっては説明が面倒
  • FS045Wはサイズは良いが、2つのSSIDをまともに使えない。あくまでモバイルルーター
  • 価格はどちらも17,000円台。使用頻度が年1回では割に合わない
  • そもそも「繋がれば何でもいい」なら、その場のWi-Fiでも足りる。映画は事前にダウンロードしておけばいいし、スマホのモバイル回線でも凌げる

作りたかったのは「そこでしばらく暮らしても平気な快適なネット環境」でした。今の製品ラインアップでは、それがサイズと価格の両方で成立しません。

そして自分の判断軸として、買ったものはいずれ捨てることになるという前提があります。今買うと、陳腐化が早い分だけ捨てる日が近くなる。断捨離を進めている最中に、数年で用済みになるものを17,000円で足すのは筋が通らないと考えました。

ルーターは進化していない

検討して一番強く思ったのはこれです。2017年発売のHT100LNと2025年発売のFS045Wがほぼ同スペック。8年です。

理由は技術というより物理と制度でした。

  • 同時マルチバンドは無線が複数系統必要で、発熱と消費電力がモバイルサイズに収まらない
  • 6GHz帯は日本では低出力屋内限定(LPI)の縛りがあり、モバイルルーターという形態と相性が悪い
  • 国内バンドの認証コストが高く、市場が小さいので各社が新機種を投じにくい

いつか、手のひらサイズで複数SSIDをまともに出せて、2.4/5/6GHzに対応して、eSIMも使える端末が出てほしい。出たら即買います。それまでは、その場のWi-Fiとテザリングとダウンロードで凌ぎます。