ベルクペイを使っていて、ずっと引っかかっていたことがある。
決済システムというのは、作るのも運用するのも金がかかるものだ。素直にクレジットカードとPayPayを入れておけば、開発も運用も他人任せにできる。なのになぜ、わざわざ自社で電子マネーを持つスーパーがこれだけ多いのか。
調べたり考えたりしているうちに、自分の最初の見立てが結構ずれていたことが分かったので、順番にまとめておく。以下、公表されている数字以外は自分の推測である。
前提:たぶん自社開発していない
まずここが認識違いだった。ハウス電子マネーは、すでにパッケージやSaaSが揃っている成熟した市場だった。
TOPPAN、バリューデザイン、ポケペイ、NECあたりが同種のサービスを出している。カードの製造発行から、キャンペーン機能、既存アプリと繋ぐためのAPI、資金決済法対応の集計レポートまで一式が含まれていて、TOPPANの資料によれば商品設計からサービス開始まで3〜6ヶ月という期間感らしい。導入先はスーパー、ドラッグストア、飲食店が中心とのことで、まさにこの用途向けの製品である。
そもそもクローズドループの電子マネーは、技術的な難易度が段違いに低い。カード会社やネットワークとの接続、オーソリ、チャージバック、加盟店への精算、不正利用の負担分け、このあたりが全部存在しない。実体としては「バーコードに紐づいた残高テーブル」で、返金も内部処理で完結する。既にポイントカードを運用しているなら、そこに残高の概念を足すのに近い。
規制も軽い。自社の店でしか使えない自家型発行者であれば、第三者型と違って事前の承認申請がいらない。基準日の未使用残高が1000万円を超えたときに、その半額以上を供託する義務が発生する、という建て付けになっている。
それでも金は払っている
ここで自分は「だから安上がりなのだ」で終わらせかけたが、当然ながらSaaSは無料ではない。むしろ無視できないコストがいくつもある。
- SaaSの初期費用と月額、そして件数課金
- チャージ専用機のハードウェア、設置、保守。100店舗を超える規模なら億単位になるはず
- カードの製造・発行費
- 供託金。未使用残高の半分が拘束されるので、前受金を運用に回せるうまみは実質半減する
- 資金決済法まわりの報告や経理の事務
正しい整理は「安い」ではなく「固定費に寄っている」だったと思う。SaaS費用は売上に比例しない。決済手数料は売上にそのまま比例する。この違いが、規模が大きいほど効いてくる。
数字を入れてみる
ベルクの2026年2月期決算を見ると、営業収益4,234億円、営業利益179億円。営業利益率にすると4%強で、売上総利益率は26.9%だった。
この構造だと、売上の2%前後を決済手数料に持っていかれるかどうかは経営インパクトとして大きい。仮に売上の1割がクレジットカードからベルクペイに移っただけでも、浮く額は年8億円規模になる計算だ。システム費用が固定的なら、この規模で回収を心配する必要はない。
……という説明を自分は一度書いたのだが、これは詰めが甘かった。
手数料の話だけでは説明しきれない
穴が2つある。
1つは還元原資だ。ベルクペイは通常1万円チャージで100円分、5のつく日は200円分が付与される。つまり1〜2%を客に配っている。避けたはずのカード手数料と、ほぼ同じ水準を自分で出していることになる。差し引きでほとんど残らない。
もう1つはもっと決定的で、元々現金で払っていた客が移ってきた場合、手数料は0%から1%に増える。純粋に損である。スーパーの客層を考えれば、移ってくる人のかなりの割合が現金組のはずだ。
だから「カード手数料を避けるため」という説明は、よくても半分しか説明できていない。最初に自分が組み立てた理屈は、ここで破綻する。
残りを埋めるもの
では何が原資を正当化しているのか。推測になるが、手数料以外の部分だと思う。
- 囲い込み:残高が入っていると他店に行きにくくなる。スーパーは近所に競合が並ぶ商売なので、この効果が一番大きいのではないか
- 退蔵益:使われないまま失効した残高は収益として計上できる
- 前受金:先に現金が入るのでキャッシュフローが改善する(ただし供託でうまみは半減する)
- 現金取扱コスト:釣銭の準備、レジ締め、現金輸送。ここは人手と警備費が直接かかっている
- データ:会員IDと購買が完全に紐づく
つまり「システム費用を手数料の削減で回収する」という単純な構図ではなく、囲い込みと現金取扱コストの削減が主で、手数料はおまけ。そう見るほうが実態に近いのだろう。自分は最初、これを逆の順序で理解していた。
客の側から見ると
この構造が分かると、使っていて感じる不便さの理由も見えてくる。
チャージは現金のみで、レジでのチャージはボーナス対象外。ATMで金を下ろして、専用機の行列に並ばないと2%はもらえない。ここでクレジットカードからのチャージを許してしまうと、避けたはずの手数料が戻ってきてしまうので、店としては絶対に開けたくない導線だろう。レジチャージを外しているのも、店員の手を止めさせないためだと思われる。
あの2%は、値引きというより、ATMへの往復と行列に対して支払われている対価だと考えたほうが正確だ。
自分の場合は、余裕があるときにまとめて入金しておいて食費を平準化する、という目的があるので使い続けているが、手間そのものは正直しんどい。残高上限が10万円なので、5のつく日に上限まで入れて回数自体を減らすのが、今のところ一番現実的な折り合いのつけ方だと思っている。
まとめ
- ハウス電子マネーは自社開発ではなくSaaSが主流で、クローズドループなので技術的にも規制的にも軽い
- ただし無料ではない。固定費として先に出ていく
- カード手数料の削減だけでは原資説明できない。現金客が移ると逆に損になる
- 実際の狙いは囲い込みと現金取扱コストの削減で、手数料はおまけ
- 客が負担しているのは、現金チャージという手間そのもの
最初は「なぜ非効率なことをするのか」という疑問だったが、調べ終わってみると、非効率を客側に寄せることで成立している仕組みだった、という結論になった。